沈殿物を撹拌

思ったこととか感じたことの備忘録です。

歯医者と大家さんと僕と大家さんと私

妊婦歯科検診で歯医者に行ってきた。

 

歯周病で歯茎から菌が入ると早産のリスクが高まるとか、妊娠中は歯が弱くなるとかで、市から検診のチケットをもらった。検診料は500円。安い。

予約した近所の歯医者は、明るくて設備も整ってて清潔ないいところだった。歯科医の先生も丁寧で優しい。歯周病検査と歯のクリーニングをしてもらった。

検診終わりには妊娠中の歯のケアの読本と、歯ブラシ、歯磨き粉も貰えた。これで500円。安すぎないか。妊娠してからというもの、ところどころで妊婦に対する自治体の助成を知ってへー!と感心する。

 

検査で奥歯が欠けてるのが分かったので、これは別途治療として日を改めて治してもらうことに。診察券を作ってもらう間、待合室の本棚で「大家さんと僕」を見つけた。お笑い芸人の矢部太郎が、一階に一人暮らししているおばあちゃん大家さんと交流する漫画で、賞を取った話題作らしい…という情報は知っていたけど、私の年代の矢部太郎といえばテレビの企画で東大を目指したり、猿を笑わせる芸を考えたりしてたイメージだった(電波少年!)なので、漫画を描いてたのは知らなかった。

手にとって読むと、大家さんのおばあちゃんがとても上品で可愛い。伊勢丹を普段使いで買い物していたり(しかもタクシーで)、部屋がいつも綺麗に整理整頓されていたり。おばあちゃん大家さんを優しく気にかける矢部太郎もとても良い。

 

私も結婚前は大家さんが一階に住んでいる物件で一人暮らしをしていた。

一階はまるまる大家さん夫妻の自宅で、上は3部屋の2階建アパート。入居するには条件があって、女性一人暮らしで、社会人で、夜の仕事は不可…などなど。ほかの2部屋の住民とは特に交流はなかったけれど、大家さんは良く気にかけてくれた。

例えば、インターホンのボタンがちょっと強めに押さないと反応しないみたいで、テプラで「強く押す」と書いて貼っておいたら、それを大家さんが見つけてすぐに新しいものに変えてくれた。(私は故障した訳じゃないので大家さんに言うまでもないと思っていた)

ある朝、出勤前に大家さんが出てきて、立派なクッキー詰め合わせを頂いた。急なことに驚いていたら、これから数日間、お風呂のリフォームをするので工事の音がうるさいかもしれないから、そのご挨拶との事だった。なんともご丁寧な…と恐縮しながら、せっかくのご厚意なのでありがたく頂いて、そのまま職場へ差し入れした。

目の前のコインパーキングも大家さんの管理物らしく、私の両親が来た時にパーキングを使っていたら、なんと「そんなところに停めなくてもウチの前に停めてくれればいいのに!」と言いながら返金してくれた。それ以来、両親が来るときは事前に大家さんへお知らせして、アパートの前のスペースを貸してもらった。

地元球団の応援に出かける時に大家さんに会って挨拶すると、「私もファンクラブに入ってるのよ〜」と言って会員証を見せてくれた。年会費10万円のコースだった。(私は4000円)

大家さん夫妻はおそらく70代くらいだけど、奥様は上品な雰囲気の方だった。常にメイクをしてヘアスタイルも決まっていて、瀬川瑛子みたいだった。玄関先には海外旅行の思い出っぽい品々が飾ってあって、お金持ちっぽい柔らかい雰囲気が出ていた。

 

部屋を借りて3年ほど経ったところで、私は結婚のために部屋を退去することになった。不動産屋さんより先に大家さんに挨拶をすると、奥様は私の門出をとても喜んでくれた。聞くと、二階に住んでいる住民はたいてい結婚を機に退去するらしい。駅近なのに割安のいい物件だから、そのくらいのきっかけがないと引っ越さないだろうなぁと思ったけど、大家さんは住民がおめでたいことで巣立っていくのは嬉しいらしい。

そして、「私の甥っ子も早く結婚して欲しいんだけど…浮いた話はないみたいねぇ」とぼやき出した。

聞くと、大家さんには30代の甥っ子さんがいるらしく、働きながらサークル活動で色々な場所に顔を出しているけど、まだまだ結婚の縁には遠いらしい。「今の30代は若いから結婚はまだ早いですよ〜」などと、そのときは返していた。

 

そして、引っ越し当日。両親が手伝いにきてくれて、主人もレンタカーを借りて来てくれた。荷物を積みながらバタバタと作業を進めていると、下で主人と誰かが話している。

階段を降りると、一時期、たまに飲み会で顔を合わせていたお調子者の男の子がいた。私は付き合いは短かったけど、主人は良く遊んでいたらしい。久々にばったり会って向こうが驚いて話しかけて来た。

私たちが結婚することを聞いてさらに驚いていた。そこにたまたま大家さんが現れ、その男の子に親しげに話しかけ始めた。今度はこっちが驚いていたら、大家さんが一言。

 

「あら、うちの甥っ子とお知り合い?」

 

って、甥っ子ってお前かよ!後で聞くと、主人は何となく察していたらしい。彼はここ周辺の土地持ちのボンボンらしいとか、私のアパートの隣のマンション名に彼の苗字が付いていたのに気づいてたとかで、さして驚いていなかった。彼の結婚を大家さんが心配している、という話にも驚いていなかった。

私としては、あの上品で親切な大家さんご夫妻の心配が気になるけど、主人曰く甥っ子の彼はかなりのおもしろちゃらんぽらんらしいので身を固めるのはまだまだ先だろうとのこと。

 

彼にまたばったり会えば、大家さんの近況も分かるけど、仙台を離れてしまったのでその可能性は低いだろうなぁ。